地獄でもいい　安倍晋三がいない世界で暮らしたい

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死臭漂うジャングル、私は鬼だった　地獄を伝える95歳

自室の壁に貼った地図には、戦場になった太平洋の島々が描かれている。鹿児島県姶良（あいら）市の坂上多計二（さかうえたけじ）さん（95）はその一つ、フィリピンのミンダナオ島に18歳で派遣されていた。地図の島々を指さし、語った。「人間、極限状態になったら、他人どころじゃなくなる。鬼になる。自分も地獄を伝えなきゃいかん」

　坂上さんが徴用されてミンダナオ島に渡ったのは1944年2月。麻畑から開墾したダバオ近くの海軍軍需部の直営農場で現地邦人や台湾人らに野菜作りを指導して、軍に納めた。

　45年5月ごろ、農場が米軍の攻撃を受け、坂上さんは腹にけがをした。負傷した人たちを担架にのせ、飛んでくる弾をよけながら海軍野戦病院に運んだが、薬が惜しいのか、軍医は「これはダメ、あいつもダメ」と言って治療しない。「わしには、かかあと子どもがいるんだ」と泣いて助けを求めても、坂上さんたちに「ダメだといったらダメだ。もうじき死ぬから、死んだら連れ帰って処分せよ」と言い、立ち去った。

　『こんな医者があるもんかと悔しかった。まだ息があったから、「処分せよ」と言った軍医の声も聞こえただろう。命が切れるのを待つのは、つらかった』

　持てるだけの米と塩を抱え、30人ほどでジャングルへ入った。掘っ立て小屋を造って拠点にした。イモを栽培し、コメ、野草でおじやにしたが、すぐに食糧は底をついた。トカゲ、ヘビ、トリやサル……。動くものを必死に探し、飢えをしのいだ。

　とうとう腹をすかせた部下が日本軍関係の水牛を盗んで食べてしまい、見つかった。私が責任者と名乗り出たら、連行され木に縛り付けられた。殺されると覚悟した。一晩あけて「同じ日本人だから」と帰してくれた時には驚いた。

　死臭漂うジャングルで、木にもたれて、白い歯を見せて笑う兵士がいた。そばに寄ると、歯や白目に見えたのは、唇や目にうごめく白いウジの群れ――。
『ぞっとした。人間が無残に死んでおるのに笑って見えるなんて、地獄でしか見えんこと』

　原爆投下や終戦を伝えるビラを手にしたものの、敗戦を信じることができず自活を続けた。ジャングルには食べ物を探して放浪する敗残兵ら。「1人で歩いたら、弱った兵隊に撃たれるかもしれん」。周りに単独行動はしないよう命じた。

　『組織から外れた飢えた日本兵が怖かった。銃を持っていた。こっちは飯盒（はんごう）に野草などを入れていて、食べ物目当てに殺されると感じた。日本人でも味方だとは思っていません』

　次々と仲間が衰弱死していったある日の夕刻。部隊からはぐれた痩せ細った日本兵が銃も持たずに坂上さんたちの小屋に来て、「一緒におらせてくれんか」と懇願した。食べ物は尽きていた。「ダメだ、ダメだ。出て行け」。追い払うと、泣きそうな顔で立ち去った。

　翌日。その日本兵は小屋近くで倒れていた。写真が3枚、頭のそばに散らばっていた。表に妻子の顔、裏に「妹尾」とあった。

　『最期に家族を思って死んだんだなあと胸が痛んだ。だが、そんな人間らしい感情は一瞬。すぐに忘れて、家族写真は死骸の脇に置いて、自分たちの「えさ」を探しに戻ったよ。明けても暮れても食べ物しか考えない。食べられそうなものに、みんなが飛びついた』

　投降したのは終戦後の9月末。生き残ったのは10人足らずだった。

　戦後、両親の故郷の鹿児島で公務員になった。あの戦争を振り返るようになったのは、結婚し、長らく子を授からなかった時期だ。

　『「助けて」という妹尾さんに、ひどいことをした報いだと感じ、妹尾という名字が頭から離れなくなった。軍医がしたことと、自分が妹尾さんにしたことは一緒ではないか。自分は鬼だった。待つ家族がいたのに、断ち切った。のたれ死にさせた責任は感じます』

　戦場体験は家族に話すだけだった。4年前、戦争体験者が語る会に出かけ、熱心に聞く人を見て、東京や福岡に足を運ぶようになった。鹿児島に住む2人の引き揚げ経験者と30日、地元で語る会を開いたところ、120人が参加。「生きているうちに、しゃべりましょう」「不条理を伝えなければ」と力を込めた。

　『95歳まで生かしてもらった。命を大事にできなかった時代を伝え、私の人生の最後をまっとうしたい』

俺ら「安倍じゃなかったんだ・・・俺たちが倒すべき相手は・・・