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中絶経験の申告は必要？　妊娠届、語りたくない事情も…

には、住所や氏名だけではなく、これまでの中絶・死産経験などの有無や、今回の妊娠が希望するタイミングだったかどうかなどを記入する項目があったからだ。過去に中絶経験があったが、それを公表したいとは全く思わなかった。

　妊娠届は、母子保健法で自治体への提出が定められている。赤ちゃんの心拍が確認できるとされる妊娠5～6週目以降、病院で妊娠の確定診断を受けた後に、役所や保健所などに提出する。届けと引き換えに、妊婦健診の補助券や母子手帳が受け取れるようになっていることが一般的だ。

　書式は、自治体によって異なる。厚生労働省令で定められているのは、届け出の年月日▽氏名や年齢、職業、個人番号▽住所▽妊娠月数▽診断を受けた医療機関や医師の名前▽性病、結核の診断の有無の6項目。しかし望まない妊娠による虐待事件などが起こる中、「妊娠期から出産後までの支援を円滑に進めるため」などの理由で、さまざまな項目を追加している自治体がある。たとえば、中絶や不妊治療経験の有無、世帯主の名前、子の父親と結婚する予定があるか、などだ。

　東京都豊島区では、世帯主名や流産、中絶の経験を聞いている。担当者は「妊娠に不安を抱えていないかなどを見極めるため」と説明。特に、中絶経験があると答えた場合は、背後にどのような事情があったのかを探り、支援を必要とする妊婦と早くつながりを持てるようにする意図だという。「あくまでも書式の一部で、みなさんに聞いているが、これまで課題を指摘されたことはない」という。

　だが、一律に書面で中絶経験などを尋ねることは、行政への警戒感を増し、逆に支援を必要とする妊婦を遠ざけてしまうと懸念するのは、大阪府子ども家庭サポーターの辻由起子さんだ。若年出産の妊婦を支援する活動を行っており、妊婦健診や行政の手続きにも同行している。

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東京都豊島区の妊娠届。流産や死産、中絶の経験や回数などを問う欄がある

　「当事者にとって、こうした書式を見ただけで『行政は頼りたくない』という気持ちにさせてしまう」。中絶に至る事情は様々で、中には性暴力やDVの被害者もいる。「妊娠の経緯やこれまでの経過というのは、個人にとってとても繊細なことのはず。語りたくない事情がある人もいることに、行政は想像力を巡らせてほしい」と話す。

　辻さんが8月、こうした自治体の妊娠届をSNS上で紹介すると、多くの反響が寄せられた。「支援を充実させるには、不可欠では」などの意見もあったが、大多数が「こんなことを聞かれるなんて、信じられない」「私もいやだったけれど、仕方なく書いた」という当事者の声だった。

　「そのうえ、苦しい思いをして申告した情報が、どこでどう生かされるのかの説明もない。ただ『聞いているだけ』になっていることもある」

　指摘を受け、取り扱いを見直した自治体もある。大阪府茨木市では、9月から「中絶経験の有無」「生活保護などの有無」などの項目を削除した。変わりに、市の職員が届けを出す妊婦に面談をしながら聞き取りをし、別紙に記録するように変更したという。市の担当者は「いつから続いていたかはわからないが、確かに配慮に欠ける部分があった。ほかの手段で、当事者の支援を充実させる方法をとっていくようにしたい」と話す。

　早稲田大学の棚村政行教授（家族法）は「妊娠届は妊娠・出産期における行政とのつながりの第一歩。入り口から踏み込んだ形で詳しい質問をすれば、当事者を支援の場から遠ざけてしまう」と指摘。また、保健師ら専門職が書類でこうした情報を入手したとしても、守秘義務の観点から他部署と共有して連携する難しさがあるとし、「実際に聞いたことが、支援の場でどれだけ生かされるのかは疑問がある」という。棚村教授は「自治体間の差も大きく、プライバシーの侵害になりかねない項目もある。本当に支援をしたいという思いがあるならば、書式では最低限の情報を求めるようにし、個人的な事情は面談などでお互いの信頼関係を十分に構築したうえで集めていくべきだ」と話す。

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