タバコ吸ってる女のイメージ

https://digital.asahi.com/sp/articles/ASP7G6SF2P7GOIPE01L.html

「受動喫煙から子を守る」7割が反対 パブコメは民意か

　「あなたの言葉で届けてください」

　「教科書にLGBTを！ネットワーク」代表の室井舞花さん（34）は、文部科学省が募った学習指導要領改訂の「パブリックコメント」で、意見の提出を呼びかけたことがある。
2016年のことだ。性的少数者（LGBTなど）といった多様な性を前提とした指導要領に改めるよう求めていた。官公庁が政省令や条例などの案を示し、意見を募るパブコメ。ハッシュタグ「#パブコメ書いた」を付け、SNSで発信してほしいとも訴えた。

　文科省に届いた意見は2974件。多様な性を教えるべきだとするコメントは368件あった。

　インターネット署名も進め、2年間で2万筆を集めたが、指導要領には反映されなかった。それでも、17年度から使われた高校の教科書の一部に、初めてLGBTという言葉が登場。中学や小学校にも広がった。

　署名だけで指導要領を変えられるとは考えていなかった。教科書会社が記述を加えた理由はわからない。でも結果的に、思いは届いた。

　「共感してくれる人の数が初めて見えて、問題に気づいてもらえるようになった。だって2万も集まったんですよ。1万ですごいと思っていたのに」

　ヘイトスピーチに刑事罰を科す全国初の条例を、昨年7月に全面施行した川崎市。パブコメには約1万8千の意見が寄せられ、賛成の立場が64%、反対が24%だった。意見の9割は、メールや市ホームページの専用フォームから。1人で何件も同じ内容で送ってきた人もいたという。

　昨年4月に施行された香川県の「県ネット・ゲーム依存症対策条例」は、子どものゲーム時間を「平日60分」などと定める。パブコメは賛成2269件、反対401件。賛成には同じ文言や誤字が目立ち、ひな型を使って特定の複数のパソコンから連続で送った可能性が指摘されている。

　総務省によると、意見の提出に実名が必須という国のルールはない。ネットを駆使し、数を「水増し」するような事例も目立つ。

多数決ではない。でも多数をめざしたいのは……
　しかし、パブコメは「多数決」ではない。

　南山大法学部の榊原秀訓教授（行政法）によると、たとえばイギリスでは、研究者や市民団体など、専門家が提案内容やその根拠の妥当性を検討し、意見を出す制度として運用されている。「本来、反対や賛成の数がどれくらい集まったかは問題ではありません」

　なのになぜ、人は「多数」をめざすのか。

　「少しでも数が多ければ、意見を聞いてもらえるのでは。私どものような弱小組合でも」

　19年末から名古屋市が募った「子どもを受動喫煙から守る条例」案のパブコメ。愛知県たばこ販売協同組合のある支部の事務局長は、反対意見を送るよう県内外の組織に呼びかけたことを認めた。

　「意思を示さないと物ごとが進んでしまう」

　条例では、喫煙者の服や室内に残った有害物質による「三次喫煙」の規制が焦点だった。喫煙者減少に苦しむ販売店にとって、「とどめをさす行為だ」。厚生労働省の報告書にも「三次喫煙の健康影響を示す調査報告はない」との記載があり、「根拠もない規制」と感じた。

　このパブコメに寄せられた意見は、653人から計1038件。10件程度のことも多いパブコメでは突出した数だった。「『組織票』でしょう」。同市職員は言う。

　市は賛否を数えていない。集計してもらうと、反対が約7割。三次喫煙について「科学的エビデンスが明確でない」「プライベート空間を規制するのは基本的人権に抵触するのでは」など、似た文言も目立つ。

　20年春に施行された条例では、三次喫煙の規制は見送られ、市は「懸念が多く寄せられた」と説明した。実際には、反対多数のパブコメではなく、「多数会派の有力市議が反対した影響」が大きかったという。