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弟に子はできない、言えなくて強制不妊手術巡る国賠訴訟、あす２例目判決

本人の同意がない不妊手術を許してきた旧優生保護法の違憲性を問う国家賠償訴訟で、全国２例目の判決が３０日、東京地裁で言い渡される。子を生み育てるかどうかを決める権利を奪われたことに対し、国の責任は認められるのか。ともに苦しんできた親族や手術に関わった医師は、被害者に寄り添う判決を望む。
今回の原告は東京都の男性（７７）。仙台市に住む姉（８０）は高校生の時、弟の手術について祖母から知らされて以来、６０年近く胸の内に抱え込んでいた。
「長い間、誰にも言えず苦しかった」
■姉も苦しみ６０年
祖母はある日、「弟は子どもができなくなる手術を受けた」と告げた。固く口止めされた。どのような手術なのか、何のために手術がされたのか理由はわからなかったが、「人に話すことはできない」と感じた。直後に祖母は急死。手術について聞く機会を失った。
三つ違いの弟とは仲がよかった。母親は弟を産んだ８カ月後に亡くなっていたため、自分が母親代わりのようなところがあった。
中学生になった弟は施設に入れられた。お彼岸やお正月にはちょくちょく顔を見に行ったが、「傷つけるのでは」と手術のことは話せなかった。卒業した弟は東京に出て、ほとんど連絡を取らなくなった。
再び交流が始まったのは弟が２９歳の頃。父親の死がきっかけで、結婚していることがわかった。夫婦で遊びに来てくれるようになり、２人の息子をかわいがってくれた。子どもが喜ぶお菓子を持ってきては、楽しそうに一緒に走り回った。「子どもがいたらこうやって遊んだんだろうな」と思うと切なかった。
■国は過ち認めて
転機は２０１８年の冬。旧優生保護法をめぐり、宮城で女性が提訴した報道が流れると、弟から電話があった。「自分も同じような手術を受けており、裁判を考えている」。祖母から聞いて知っていたことを告げると、弟は黙って聞いていた。
自分が知っていたことについては何も言わず、「手術のことは施設の先輩から聞いて知っていた」と打ち明けられた。「裁判で証言してほしい」と頼まれたとき、迷いはなかった。
今年１月の口頭弁論では、「ずっと話さなければいけないと思っていた」と証言した。心にしまい込み続けたことについて「辛かった。話せてよかった」と言葉を詰まらせながら語った。
国は過ちを認め、弟には平穏な日々を取り戻してほしいと願う。「意味もわからない子どもに手術したのはひどい。国には謝罪をしてほしい」（関口佳代子）
■「施策進める使命感」医師の悔恨
手術の適否を決める審査に携わっていた広島市の土光文夫医師（９３）は「当時は法に従って施策を進める使命感が強かった。今考えれば、人権上も問題があり、悔恨の思いだ」と語る。
土光さんは１９６５年から広島市民病院に勤務。産婦人科部長などを務めていた８０年代から、広島県優生保護審査会の委員を約１０年間務めた。数カ月に１度、県庁の一室に産婦人科医や精神科医、検察官、裁判官、民生委員らが集まった。手術申請書や健康診断書などをもとに審査したという。
厚生省（現厚生労働省）が５２年に都道府県に通知した文書によると、審査会は不当な手術など人権侵害を防ぐ役割を担っていた。だが、土光さんは「手術は本人や家族のためになるという意識があった。手術を認める『適』という結論を淡々と出していた」と振り返る。自身が関わったすべての手術が承認されたと記憶している。
裁判が起こされ、自分が関わってきたことの重大さに気づいた。土光さんは昨年３月、市医師会の会報に国に謝罪などを求める文章を寄稿した。そしてこう話す。「（手術は）障碍者への差別で、日本の医療の落ち度だった。裁判では原告たちの望むような形になってほしい」（黒田壮吉）
■除斥期間の適用、焦点
旧優生保護法をめぐっては大阪、福岡など全国８地裁と仙台高裁で計２４人が争っている。初判決となった昨年５月の仙台地裁は違憲と判断しつつも、国の賠償責任は認めなかった。不法行為があっても２０年で請求権が消える「除斥期間」を適用したからだ。国家賠償訴訟では同じ理由で原告の敗訴が繰り返されており、この壁を乗り越えられるかが最大の焦点だ。
訴状によると、原告の男性は非行を理由に施設に入所していた１９５７年、事情を知らされないまま手術を受けさせられた。１４歳ごろのことだ。仙台地裁は除斥期間の起算点について、国の主張通り手術日とし、２０年が過ぎたと判断して請求を退けた。
今回の原告は起算点について、子どもができない状態が続いているため「損害は現在も続いている」とし、２０年の計算は始まっていない▽始まっているとしても、手術の違法性を認識した仙台での提訴の翌日からだ――と主張。