大衆居酒屋「嫌儲」にありそうなメニュー🏮

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辞めた社員ゼロ　IT出身社長の人を信じる経営

新型コロナウイルスの影響が長引くなか、売り上げが急減しながらも7月末時点で辞めた社員はゼロというところがあります。外資系IT大手で働いていた大学の同級生が2人で起業した静岡県浜松市発祥の飲食チェーンです。無駄を省く効率的な経営をしてきましたが、コロナ禍で経営トップと管理職、社員らがまとまって危機に立ち向かっています。どんな思いで頑張っているのか、静岡県の飲食チェーンを7月下旬に訪ねました。

　浜松市に本社がある飲食チェーン「こころ」の渡辺一博社長（45）は大手IT企業の日本オラクル出身。大学の同級生で日本IBMで働いていた佐藤充晃副社長（45）と一緒に、2007年に起業した。IT企業での経験もいかし、効率重視の経営をめざした。売上高、客数、客単価、従業員数、労働時間などのデータを蓄積し、経営効率のいい数値の組み合わせを導き出すといった工夫をしてきた。

　一方で、従業員のワーク・ライフ・バランスも重視する。佐藤副社長は「飲食業は長時間労働で低賃金のイメージがある。有給休暇もちゃんと取れて充実したプライベートが送れるようにしないと飲食業は廃れていく」と話す。

売り上げは前年同期の2割まで激減
　魚の「ブリ」に特化したユニークなメニューも評判となり、運営店舗は19店、正社員約50人、契約社員とアルバイト約400人の企業に成長した。年間売上高は10億円に達し、株式上場も視野に入っていた。

　そこをコロナ禍が襲った。

　4月半ばから2カ月半、全店舗がほぼ休業に追い込まれた。段階的に店舗を再開し、7月に入ってからは一時、1店あたりの平均売り上げが前年の約5割まで回復した。だが、浜松市が繁華街で30人規模のクラスター（感染者集団）が発生したと7月25日に発表すると、客足は再び鈍った。その後、売り上げは前年同期の2割ほどまで落ち込んだという。

　「創業以来、最大の危機」。渡辺社長はこう深刻に受けとめる。会社の危機を社員はどう感じているのか。「みんなが何を考えているのか私も知りたい」と渡辺社長も同意してくれて、複数の社員に直接話を聞いた。

　秋山翔郁さん（25）は静岡市の中心市街地にある「居酒屋ダイニングてんくう静岡両替町店」の店長。東京の飲食店で働いていた経験はあるが、入社してまだ2年半の若手だ。

　店長に就く時、上司からは小さな社長のつもりでがんばれと指示された。アルバイト約10人を率いて売り上げを伸ばそうとしてきた。店舗の休業中はほぼ自宅待機。給料は満額もらえたが、テレビのニュースをみていると会社の先行きに不安を覚えた。コロナ禍でも強い業種は何だろうかと想像し、「転職も考えた」という。

　以前は店の全130席がほぼ埋まる日々だったが、営業再開後は来客が1～2組だけの日もある。秋山さんは「モチベーションを保つのが難しい」と打ち明ける。なぜ辞めないのか尋ねてみると、「この状況をどうやって乗り切るか。それを考える経験が自分の財産になるから」という答えが返ってきた。

ボードに書いた「V字回復」
　こころの営業部長の小木曽悟志さん（44）は店長たちを束ねる責任者だ。席は本社にあるが、店舗を回って語り合うことが多い。店長全員を集め7月末に開いた会議では、ホワイトボードに黒の太字で「V字回復」と書き、「この苦境を乗り切ったらとんでもない経験になる」と呼びかけた。秋山さんは小木曽さんの呼びかけを受けとめているようだ。

　小木曽さんの呼びかけに説得力があるのは、困難を乗り越えた経験があるから。こころでの社歴は3年と浅いが、18年勤めた前職の大手焼き肉チェーン時代に店長として狂牛病問題を経験した。その後も全国的に食中毒問題がクローズアップされた時期などもあったが、会社は経営危機を乗り越え、再成長の軌道にのった。

　別の企業で成長に取り組みたいと思い立ち、こころに転職した。いまは子育て中で、休業中はさすがに不安になった。転職を考えるべきか妻と相談したが、励まされた。「最後まで社長、副社長と一緒に戦うことがいまの僕の生きるすべて」という。

　労働基準法は、休業中も従業員に一定の休業手当を支払うよう定めている。厚生労働省はコロナ禍での休業手当の支払いを後押しするため、雇用調整助成金の制度を拡充した。それでも経営側が支払いを拒み、労使の対立が起きている企業もある。

　こころでは、正社員、契約社員、アルバイト計185人に、通常の給料と変わらない水準で休業手当を支給した。総額で約5千万円かかったという。