眞子さま佳子さまって大学卒業した後就職も結婚もしてないけど、普段なにして過ごしてるの？　暇でしょうがないだろ

https://mainichi.jp/sunday/articles/20201101/org/00m/040/001000d

メスのウシは忙しい　腹も乳も休む暇なし

私にとっての「牛学問」の師匠は、家畜繁殖学者の前多敬一郎さんである。名古屋大で集中講義をした際、そこで教授をしていた前多さんと知り合った。

　現代人の動物との向き合い方は、大きく三つに分かれる。

　その１、野生動物。飼育はしないが、観察したり保護したり、時には駆除したりする相手。その２、愛玩動物。家族として守り育て、いやされ、共に生きる「伴侶動物」。その３、経済動物。守り育てる一方で使役し、時には屠(ほふ)って食べる「家畜」。

　最後の経済動物が前多さんの専門分野である。牛でいうなら、いかに効率よく子牛を産ませるか、肉質が良い牛や乳量の多い牛をいかに育てるか、といったことを分子レベルで研究し、社会へ普及させるのだ。

　現場を知らない私にとって前多さんの話はやたらに面白かった。このあたりの話は拙著『気になる科学』（中経の文庫）でも紹介したので興味のある方はぜひ。

　前多さんから教わった中で私を驚かせたことの一つが乳牛の一生だ。

　牛乳は雌牛から搾った乳を原料に、殺菌したり成分を調整したりして作られる。しかし、漫然と雌牛を飼うわけではなく、牛が生来持つ繁殖サイクルに繁殖学の知識を組み合わせた生産体制が構築されている。

　雌牛は生後約１年半で性成熟する。そこで種付け（人工授精）を受ける。妊娠すれば２８０日で出産する。ここから約10カ月、乳を搾られる。子牛に与える母乳のおこぼれを、我々がいただくわけだ。

　一方、この母牛は子牛と離され、産後２カ月で次の種付けを受ける。出産前の２カ月は搾乳を休むが、次の子牛を産めば搾乳は再開、２カ月後には次の種付け。このサイクルを３～４回繰り返した後は食肉となって生涯を終える。

　人間界では「産む機械」発言で閣僚が謝罪したが、雌牛こそ「産み、乳を出す機械」。前多さんの話に驚きつつ、私の胸中は「人間でよかった」であった。