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https://digital.asahi.com/articles/DA3S14513115.html

欧州農業、途絶えた出稼ぎイギリス・フランス・イタリア

新型コロナウイルスの感染拡大が、欧州の農業を揺るがしている。外国からの出稼ぎ季節労働者に頼ってきた「弱点」が各国の行動制限によって顕在化した。行動制限の緩和も進むが、先行きは見通せない状況だ。日本でも外国人技能実習生が来日できず、人手不足を懸念する声が出ている。
■イギリス収穫は東欧頼り、渡航制限に悲鳴
「第２次大戦の偉大な運動『農業部隊』の再現を」
チャールズ英皇太子は５月、こう訴えた。農業部隊とは、大戦中に男性に代わって農作業を担った女性らの名称だ。当時と同様に、市民がこぞって農作業に参加するように呼びかけた。
英国では、春から初夏にかけての風物詩として喜ばれる５月のアスパラガスを皮切りに、イチゴ、ホウレン草から果樹へと、秋まで収穫が続く。例年、ルーマニアやブルガリアといった東欧などからの１０万人近い季節労働者が作業に当たってきた。
しかし、今年は新型コロナの影響で、ほとんど来られなくなった。国連食糧農業機関（ＦＡＯ）は４月、渡航制限などによって欧州全体で１００万人の農業季節労働者が不足する可能性を指摘している。
英大手農場経営者らでつくる農村土地ビジネス協会のジョナサン・ロバーツ渉外部長（３８）は４月から求人を続けてきた。「誰でもいい。とにかく助けにきてほしかった」と語る。６月初めまでに、コロナ失業者や元軍人らが求人に応じ、収穫に間に合った。
だが、ロバーツさんは「問題は技術。野菜や果実を摘むなんて誰でもできると思われがちだが、大変な熟練を要するのだ」と語る。
英国でも、２０年近く前まで農作業を主に担うのは国民だった。だが、２００４年に東欧諸国が欧州連合（ＥＵ）に加盟。当時、英国は安い労働力を積極的に招く「オープンドア政策」を取り、農作業に外国人が不可欠な構造になった。
コロナによる死者が欧州最多の４万人超となるなか、英政府は８日から入国者全員に１４日間の自主隔離を課した。しかし、農業労働者は免除し、人手不足解消に躍起だ。
英国は今年１月にＥＵを離脱し、延長されなければ移行期間は今年で終わる。ジョンソン政権が移民労働者を締め出す方針を示していることも、農家は懸念する。ロバーツさんは「今後は東欧の労働者も当てにできない。代わりを見つけなければ」と話した。
一方、コロナ禍に伴う消費や流通の変化も、農家にとって悩みの種だ。英国では、ホテルやレストランの休業に伴って牛乳の価格が下落。農家直売価格が通常１リットル２１～２８ペンス（約２８～３８円）のところ、１５ペンスにまで下がった。
英南西部で酪農を営むジオティ・フェルナンデスさん（４６）は「これでは採算が取れない」と嘆いた。
また、英国で収穫されるイチゴは、結婚式が延期になるなどで大幅な消費減が予想される。特に痛いのは、テニスのウィンブルドン選手権が中止になり、会場名物の生クリームかけ産直イチゴ「ストロベリー＆クリーム」に使う３０トン近い消費が消えたこと。
農家からの要請を受けて、英政府は販路の開拓を模索している。（ロンドン＝国末憲人）
■フランスブドウ農家「入国は運次第」
フランス南部のブドウ農家、アルバン・ランベルタンさん（３５）は５月、６人のスペイン人を農場に呼び寄せた。ブドウの葉が開き始め、本格化する作業の人手を確保するためだ。
国境を原則閉じている仏政府は同月、深刻化する労働力不足に対応し、例外として一部の農業季節労働者の入国を認めていた。
最初の２人は、国境を難なく通過。だが、次の２人は国境で追い返された。仏警察に「通過できるのはフランスで暮らす人か、正社員として働く人だけ。すぐに引き返さないと罰金か禁錮刑だ」と告げられた。
１４日に発った残りの２人も国境で一度入国を拒まれたが、別の場所で試すと通過できたという。
混乱する入国審査にランベルタンさんは「通れるかは運次第。まるで宝くじだ」と嘆く。ランベルタンさんは季節労働者のリーダー役を毎年担っているモロッコ人男性も呼び寄せようとしたがＥＵ域外からの入国は認められず、断念した。
フランスでは毎年多くの季節労働者を東欧や北アフリカなどから受け入れてきたが、今年は入国できない人が続出。人手が足りずに、イチゴなど多くの農家が収穫をあきらめたと報じられている。
ギヨーム農相は３月下旬、仕事がない国民に向け、農作業や流通での仕事をあっせんすると発表。仏紙フィガロによると、専用のサイトに１カ月で３０万人以上が登録したものの、実際に働いた人は１万５千人ほどだった。