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父・忠夫、最後は「イェーイ」　高嶋政伸、いい人から悪役まで　「名演技は丸覚えから」

俳優として、司会者として広くお茶の間に親しまれた高島忠夫が他界して８カ月。高島ファミリーの末っ子として世に出た息子の高嶋政伸は、可愛いがられる役どころから悪役へと転換し、大成した。俳優への道を作ってくれた父にいま何を思うのか。

　役者になったきっかけは、父への「土下座」だった。幼少期から容姿にコンプレックスがあり、役者でなく映画監督になるつもりだった。脚本を学び、大学のとき自主映画を作った。だが、その編集代の請求書が届き仰天する。２８０万円だった。

　「色んなバイトを探しました。『腕の骨を折る』というバイトがあると聞いて、３０万円。やろうと思ったけど、両手両足を折っても百数十万円でまだ足りないし、返済も長く待ってくれない」。あきらめて両親に土下座すると、父は「えらい額やなぁ」と絶句した後言った。「なんとかするけど、その代わり明日からおれの付き人をやって、お前は役者になれ」。従う以外に選択肢はなかった。

　「役者になっても、僕の芝居の感想は何も言ってくれなかったな」とつぶやく。「僕がねじくれた性格で、褒められると逆に疑いを持つタイプだったからかな」

　家族思いだが、教育に厳しかったという父に、若い頃はよく反抗もした。「悪いことをしてよく顔とかたたかれた」と語り、「パンとたたかれても僕は『痛くもねえや』って返していた」と話す。

　言葉少ない父が、唯一言っていた役者の哲学は「セリフ丸覚えから名演技が生まれる」「どの場面からでも演じられる状態にしろ」。

　父の言葉は、いまも政伸の中に刻まれている。１月から放送しているテレビ東京の「病院の治しかた～ドクター有原の挑戦～」では、経営が厳しくなった病院の再建を支える銀行員役を演じているが、空いた時間はほぼ常に台本を手にし、難解な専門用語を自分の中で消化する作業を愚直なまでに続けてきた。

　２１歳で役者デビューしてしばらくは「いい人」役ばかり来た。「田舎から出てきて女性に奥手でおっちょこちょいで、とか全部同じような設定ばかりだった」と話す。

　だが、３０代後半から悪役のオファーが舞い込むようになった。その狂気に満ちた芝居で世間のイメージは一変する。「僕はホラー映画や不条理劇が大好き。悪役は堂々と世間に対してあっかんべーって出来て面白い。３６５日、２４時間、ずっと人がどうやったら嫌な気分になるかということを考え続ける」と話す。

　政伸や兄の政宏が売れっ子になり、笑顔に包まれた「高島ファミリー」のイメージが定着してきた裏で、父はアルコール依存症に苦しみ
１９９８年にはうつ病を発症した。一日中ほとんどベッドやソファから動かず、言葉も発しない父を家族全員で支えた。「少しずつ快復していって、孫が生まれてからは『俺は百まで生きるで』って言ってました」と話す。

　最後に会ったのは、亡くなる３日ほど前。１歳１０カ月の息子を連れて行った。息子が病室にあったギターを触って鳴らし始めた。するとベッドにいた父は拍手をして親指を立て「イェーイ」と小さく言ったという。「大往生だった。色々あったけど、最後父は幸せだったんじゃないかな」